何故か、溜息が零れる声がして。






気が付けば、ケントは動くのを止めていた。

何故って、後ろから―――――誰かの悲鳴と共に、斧が飛んできた、から。















こんなにちかくにいても










………ドッ…






「う………?」






「きゃあああああああ!!」








「セイン……?」

みるみる、隣に居たケントの目が見開かれていく。
そして、次第に体が硬直していくのが分かった。




「あれ……? しくじった、かな……」
セインは、静かに馬に凭れ掛る。
その背中からは、痛々しい傷跡から血が出血していた。




……最後に、お前のまた、新しい顔を見る事が出来たんだ。

別に、悲しい事なんて……何も、無い筈。


ただ…お前を、残していくのだけは心残りだけれど………








「セインッ!!」
半ば悲鳴の様なその声は、紛れもなくケントの声だった。
そして、




「ケントさんっ! セインさん!!」


遠くから、叫び声がした。
間もなく、その声の正体が現れて―――…




「……エ、エレイン!? 何故此処に……?」

「にっ、逃げて……! さっきから、謎の男達が貴方達を追ってきているの!!」
エレインは息を切らせて、必死に話す。

「何……? どうして、そんな事を…」
「お父さんが…お金を握らされて、情報を話したの…っ! いいから、早くセインさんを連れて…」

「しかし、君も危ないだろう、早く、馬に乗って!」
「ごめんなさい…お父さんの所為で、セインさんが……」
「君の所為じゃない。 セインだって、怒りはしないさ」
ケントはそう言って、すぐにセインの背から斧を抜き、セインの馬ごと手綱を引いた。

セインはまだ気を失ったまま、動く気配はない。




……この先、地図を見れば町や村は無かった筈だ。

とすれば、万事休すか………




ケントがそう考えていると、今度はケントの馬が嘶いた。

「っ!?」
「ケントさん、危ない!!」

エレインの言葉と馬の嘶きに、危うく手斧を避ける。
素早く投げられたそれは、ケントの肩を掠めて先の大木に深く刺さった。






投げられた方向を見ても、一向に正体が分からない
このままでは―――二人共、殺されてしまうだろう。


「エレイン、しっかり掴まれ!! 悪いが、後方を見ていてくれるかっ!?」
「わ、分かったわ……!」
エレインは、ぎゅっと馬にしがみ付き、ケントの脇から後方を必死に覗いていた。
しかし、未だに相手の姿が見受けられない。
何故……?

エレインは、訳が分からずにただ後方のみを見ていた。



ピキッ、パキキ……!

ドカドカと踏み荒らされる木々。
その上を、セインの血がぽたぽたと落ちていく。
そのおかげで、余計に此方に居るという事を知らせている様なものだった。

しかし、今すぐには手当する事が出来ない。
ケントは必死に、前だけを見て馬を走らせた。




バサ、ガササッ!

草木があちこちを掠め、ケント達の姿を草木で覆っていく。
その所為か、ぴたりと斧の攻撃はなくなった。



「よし、このまま―――」

「ケントさんっ!! 誰か、来ます!!」

「何っ!?」





そして、まもなく――――


「ケントさんっっ!!」




…………ビシィッ!!!



「くっ!!」

ケントの腰を斧が掠め、軽く鮮血が吹き出る。
それくらいで倒れたりはしなかったが、動く事が困難になってしまった。


「ケントさん、気を付けて!! 奴らは…数人居たわ!」

「くそ……っ」
これでは、埒が明かない………


ケントは、次第に息が上がり、汗が零れ始める。
早くしなければ、セインも危ない。

せめて…手当が、出来れば…………



「ケントさん、私を降ろして!」
「!? な…っ何を、言っている!」
「私なら……ケントさんが、戦っている間に、セインさんの手当が出来るかも……」
「……しかしっ、このままだと…」
「死んでしまいます、これでは……皆! だから……私も、覚悟を決めます」
そう言った、エレインの顔はとても頼もしく、感じられて。

「……分かった。 危なくなったら、すぐに隠れて……!」
「はい!」

そう言うと、エレインを降ろし、セインも同時に降ろす。



セインの傷口はまだ流血があったが、エレインは素早く草陰に体を引き込み、持っていた傷薬を使いだした。



(セイン………私の相棒よ、どうか、無事で……!)






そして、ケントはまっすぐに振り返り、自分が真っ先に標的となる様にした。

「出てこい!! 卑怯者共め……!」


「……くく、お前達が、キアランの使いだな……」
「っ!! 貴様か!?」


すると、間もなく一人ではなく、確かに数人の屈強な男達が斧を手に、ケントを囲んできた。

「くそ……!!」


「さぁ、死んでもらおうか!!」
「断るっ!!」


そして、ケントは素早く腰の剣を引き抜き、一人目に斬り掛った。
引き抜いた瞬間に、腰に鋭い痛みが走ったのを堪えて、目の前の的に集中した。

草陰では、セインの手当てにエレインが頑張ってくれている。
その思いを、無駄にしてしまう訳にはいかない。

何より、エレインの未来を奪ってしまう訳には、いかなかった。






「ぎゃあああ!!」

「ぐわっ……!」


ケントが素早く剣撃を繰り出す度に、辺りには血が飛び散り、男達の数は減っていった。
しかし、同時にケントも傷を負っていく。

確実に、そしてじわじわと………


斧の攻撃は、避けやすいがその分、当たってしまうと重症になり兼ねない。
だからこそ、ケントの動きは素早さに長ける様に、訓練してきていたのだ。










“生き残って、キアランに戻ろうな、ケント”










(そうだ……こんな所で、死ぬ訳には、いかないのだ……)


ケントは、ぎりりと歯を食い縛る。
覚悟を、もっともっと。

しっかりと、堅く決めなくては。







(セインと……キアランに、また帰るのだから!!)

















「くそっ……死、ねぇぇぇ!!!」


「うあああああ!!」







ザンッ!!














「これで……終わりだ…」


「ガ……ハァッ………」
最後の男が、ドサッと崩れ落ちた。






後は、二人を連れて、手当がまともに出来る場所を探す――――。




「エレイン、大丈夫か!?」

「ええ……ケントさんも!」





ほっと安堵の息を漏らしたのもつかの間、エレインが次に発した言葉は無情にも、最後までケントの元に届く事は無かった。










「―――――ケントさん、後ろ――――……!!」





「あ………?」








ザ……ン…









「あ……セ、イ………」



「ケントさんっ!!!」










“ケント……生きて、キアランに……帰ろうな………?”













最後にその言葉が再び頭を余技って、ケントの意識は真っ白になった。










つづく




セイン負傷……出番が減ってます、気を失ったので……
でも、ケントが頑張ってセインをカバーしてやってるので、そんなに問題はないかと………。
凛々しい未来の隊長ケントが大活躍の章でした(爆。

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